2026年5月、英BBCの調査報道チーム「BBC Eye」が公開したドキュメンタリー『Burning Sun: Exposing the secret K-pop chat groups』は、この事件が風化しかけていた国際社会に凄まじい衝撃を与えました。単なる過去のまとめではなく、隠蔽工作の深層と、命がけで真実を追った女性たちの戦いが克明に描かれていたからです。
故ク・ハラさんが果たした決死の役割
ドキュメンタリーの中で最大のハイライトとなったのは、元KARAのメンバーであり、2019年11月に急逝した故ク・ハラさんの存在でした。当時、取材に行き詰まっていたSBS funEのカン・ギョンユン記者に対し、ハラさん自ら「力になりたい」と電話をかけてきた事実が初めて公表されたのです。
ハラさんは自身も元交際相手からのリベンジポルノ脅迫に苦しんでいた経験があり、加害者グループの一部と旧知の仲であったことから、彼らのスマートフォンのパスワード解除や、チャット内で「警察総長」と呼ばれていた癒着相手の正体を特定するための決定的な情報を提供しました。ハラさんの勇気ある証言がなければ、警察上層部との癒着ルートは完全に闇に葬られていた可能性が高かったのです。
警察癒着の真相と司法の厚い壁
チャットルーム内で「警察総長が後ろ盾についているから心配ない」と豪語されていた人物は、実際には警察庁の人事や監察を司る実力者であったユン・ギュグン総警(日本の警視正〜警視長クラス)でした。ユン総警はスンリらが経営する別の飲食店の食品衛生法違反取り締まりの情報を事前に漏洩させ、見返りにゴルフ接待やコンサートチケットを受け取っていたことが判明しています。
しかし、最終的に司法が下した判断は、国民の法感情とは大きく乖離するものでした。ユン総警は職権乱用権利行使妨害などの主要な容疑の多くが無罪とされ、未公開株のインサイダー取引などの微罪で罰金刑にとどまりました。現場の警察官から警察幹部、そして歓楽街の利権が幾重にも絡み合った「江南カルテル」の深層は、最高検察庁や裁判所の追及をもってしても完全に解体することはできませんでした。