クリスチャン・ルブタンの代名詞であるレッドソール。そのドラマチックな誕生は、1992年にまで遡ります。当時、デザイナーのクリスチャン・ルブタンは、ポップアートから着想を得た「Pensée(パンセ)」という新作シューズのプロトタイプを前に、激しい違和感を抱いていました。デザイン画の段階ではエネルギーに満ち溢れていた靴が、完成した実物ではなぜか圧倒的なインパクトを失っていたためです。
「何かが足りない」とアトリエで頭を抱えていたルブタンの視界に飛び込んできたのは、偶然にも隣で自分の爪にシャネルの赤いマニキュアを塗っていた女性アシスタントの姿でした。直感を信じた彼はそのマニキュアボトルを奪い取り、黒かった靴底一面に塗りたくったのです。鮮烈な赤に染まったソールは、靴全体にエネルギーと圧倒的な生命力を吹き込みました。これが、世界中で愛される「レッドボトム」が産声をあげた歴史的瞬間です。
靴底が赤い理由について、ルブタン本人は「赤は情熱、愛、そして生命力を象徴する色であり、男性の視線を惹きつけるエネルギーを持っている」と語っています。また、歩き去る女性の後ろ姿にドラマを生み出すという視覚効果も計算されています。前を歩く人の靴底が見えるほんの一瞬、鮮やかな赤が閃くことで、見る者の記憶に強烈な余韻を焼き付けるのです。