ムロツヨシが本名を公表しない最大の理由。それは、4歳のときに経験した両親の離婚と、実の母親に対する徹底した配慮にある。
幼くして両親が離別。親権を持った父親は別の女性と暮らすようになり、幼い彼と姉は親戚の家や祖父母の元で育てられた。激動という言葉では足りないほど複雑な環境だ。実母の顔の記憶すらほとんどないまま少年期を過ごしたという。
大人になり、役者の道を志したムロツヨシの胸に去来したのは、自分を産んでくれた母の存在だった。もし本名で表舞台に立ち、自分が有名になってしまったらどうなるか。生き別れた母は、すでに別の家庭を築いて新しい人生を歩んでいるかもしれない。突然、テレビからかつて手放した息子の名前が流れてきたら、その家族に波風を立ててしまうのではないか。
「母の新しい生活を絶対に邪魔したくない」。その一点だった。本名を伏せるという選択は、過去の恨みや隠蔽ではなく、顔も覚えていない母の平穏を守るための、あまりにも繊細で深い愛情から生まれたものだった。