本作において今なお最大のサプライズとして語られるのが、ヒロインが恋に落ちる図書カードの少年・天沢聖司の声を俳優の高橋一生氏が演じていたという事実です。近年テレビのトーク番組やインタビューでも度々言及され、SNS上で定期的にトレンド入りするトピックとなっています。
当時、劇団扉座の養成所に通う14歳(中学3年生)の子役だった高橋一生氏は、厳しいオーディションを経て聖司役に選ばれました。選出の決め手となったのは、飾らない素朴さと、背伸びしたい年頃の男子特有の繊細な声質でした。宮崎駿氏と近藤喜文監督は、アニメ的な誇張された美少年ボイスではなく、「等身大の中学3年生男子の佇まい」を求めていたのです。
このキャスティングを語る上で欠かせないのが、「収録直後に起きた声変わり」という運命的なエピソードです。高橋氏本人が後の回顧録や対談番組で明かしたところによると、アフレコ収録が行われたのは声変わりが始まるまさに直前のタイミングでした。収録が完了してからわずか2週間〜1ヶ月足らずで声変わりが本格化し、声のトーンが急激に低くなったといいます。
もし収録スケジュールが1ヶ月遅れていれば、あの澄んだ高音と少年の無垢さを湛えた天沢聖司の声はこの世に存在していませんでした。まさに10代前半の短い一瞬にしか出せない「奇跡の少年美声」が、スタジオジブリのセル画の中に永久保存された形となったのです。