獣害事件の現場検証において頻繁に記録されるのが、ヒグマ土埋めの習性と呼ばれる特異な行動です。人間側の視点では「罪を隠すための死体遺棄」のように映る場合もありますが、動物行動学における解釈はまったく異なります。
これは学術的に「キャッシング(食糧貯蔵・隠匿行動)」と呼ばれるもので、熊が一度に食べきれなかった大型の獲物を、カラスやキツネ、あるいは他の熊に横取りされないよう一時的に保管する習性に起因します。土や枯れ葉、木の枝をかき集めて獲物の上に被せることで、獲物の臭いを外部へ漏れにくくし、視覚的にも隠蔽する効果を狙っています。
この行動の根底にあるのは、熊の極めて強い獲物執着の心理と理由です。熊にとって「自分の力で仕留めた(あるいは確保した)肉」は絶対的な私有財産であり、一度土で覆った場所は自分の縄張りそのものとなります。隠した場所の周辺に潜み、侵入者が現れれば自らの所有物を守るために猛烈な攻撃を仕掛けてくるため、埋められた現場は事実上の「トラップエリア」と化します。