現在でこそ全国区の知名度を誇る矢場とんですが、その成り立ちは戦後間もない名古屋の混沌とした屋台街にまで遡ります。創業者の鈴木義夫氏が雑踏の屋台で酒を飲んでいた際、つまみとして食べていた串かつを、目の前で煮えたぎっていた「どて煮(牛すじやモツを八丁味噌で煮込んだ鍋)」の中にふと落としたことがすべての始まりでした。
拾い上げて恐る恐る口に運んだところ、味噌の深いコクと揚げ油の旨味が絶妙に調和し、驚くべき美味へと昇華していることに直感を得ます。これに改良を重ね、昭和22年(1947年)に南大津通(現在の矢場町)で創業したのが「矢場とん」の起源です。すなわち、矢場とんのみそかつは「完成されたとんかつにタレを添えた」のではなく、「煮込み鍋の旨味をとんかつに染み込ませる」という屋台発祥の偶然から誕生した料理なのです。
この歴史を語る上で欠かせないのが、一度見たら忘れられないユーモラスなマスコットキャラクターの存在です。矢場町本店の巨大な外壁にも黄金色で堂々と鎮座しているこの豚は、大相撲の化粧まわしを締めた姿から正式には「横綱ぶた」と命名されています。しかし、公式広報や地元ファン、観光客の間では親しみを込めて「ブーちゃん」と呼ばれ、愛され続けています。
現在では飲食の枠を超え、店頭や公式ストアで展開される「ブーちゃん グッズ」が若者や外国人観光客の間で大ヒットを記録しています。アイコニックなTシャツやピンバッジ、トートバッグ、文具などはコレクターズアイテムと化しており、単なる飲食店から名古屋を代表するポップカルチャーアイコンへと進化を遂げた象徴と言えます。