食通の間でしばしば議論になるのが、全国各地に存在する類似の郷土料理との識別です。とりわけ混同されやすい宮崎県の「冷や汁」、そして岐阜県白川郷に伝わる「すったて汁」との間には、明確な構造と歴史の違いが存在します。
まず、宮崎の冷や汁との最大の相違点は「魚の有無」と「主食」にあります。宮崎の冷や汁は、アジやイワシなどの焼き魚の身をすり潰して味噌と合わせ、香ばしく焼き目をつけた「焼き味噌」を出汁で溶いて温かい麦飯にかけるのが本流です。対して埼玉のすったては、魚肉を使わずに白ごまと味噌を軸とし、コシの強い冷たいうどんを浸して食べる「つけ麺スタイル」を基本とします。
一方、世界遺産で知られる岐阜県・白川郷のすったて汁は、夏の清涼料理である埼玉のすったてとはまったく異なる冬の温かい汁物です。白川郷のレシピでは、石臼で水ごとすり潰した生の大豆(この大豆ペースト自体を飛騨地方で『すったて』と呼びます)をベースに、昆布出汁や野菜とともに煮込み、味噌や醤油で仕立てる伝統料理です。同じ「すったて」という名前を冠しながらも、地域風土に根ざした素材と目的の違いが際立ちます。