熊を愛し、野生の懐に飛び込みながらも、最終的に自らもろとも捕食されて命を落としたティモシー・トレッドウェルの軌跡を描いたドキュメンタリー映画『グリズリーマン』。あの作品が突きつけた冷酷な教訓は、現代のキャンパーにとっても決して対岸の火事ではない。SNS映えや非日常の癒やしを求めるあまり、猛獣に対する本能的な恐怖や敬意を忘れた「無防備な過信」が、現場には蔓延している。
急成長を遂げたアウトドア産業が手軽さとおしゃれなライフスタイルを喧伝する一方で、日本オートキャンプ協会などが警鐘を鳴らす安全教育の浸透は遅れをとっている。テントという布一枚のシェルターは、熊の一撃の前にはティッシュペーパーと同等の強度しか持たない。大自然の中に身を置くということは、人間が食物連鎖の頂点から即座に滑り落ちるリスクを引き受けることと同義なのだ。