日常的に飛び交う「伺わせていただきます」という言葉は、本当に文法的な誤りなのか。言葉の骨格を分解してみると、伺わせていただきます 間違いの真相が明確に見えてくる。
この表現は、次の3つの要素で構成されている。
1. 「行く・訪問する」の謙譲語Iである「伺う」
2. 使役の助動詞「(さ)せる」+「もらう」の謙譲語I「いただく」を組み合わせた「〜(さ)せていただく」
3. 丁寧語の「ます」
ここで焦点となるのが、ひとつの動作(訪問する)に対して「伺う」と「いただく」という2つの謙譲語Iが連続して使われている点だ。ひとつの語の中に同じ種類の敬語を重ねて使う現象は二重敬語と呼ばれ、日本語の原則としては悪文とされる。したがって、「伺わせていただきます 二重敬語」という疑問に対しては、厳密な文法定義に照らせば「二重敬語に極めて近い過剰敬語」と結論づけられる。
さらに公的な裏付けとして、文化庁 敬語の指針(文化審議会答申)を参照すると、「〜(さ)せていただく」を使用するための基本条件として以下の2点が明記されている。
・相手側や第三者の「許可」を受けていること
・その行為によって自分側が「恩恵」を受けるという事実や気持ちがあること
たとえば、こちらから一方的に訪問の予定を伝える場面や、まだ訪問の合意が取れていない段階で「伺わせていただきます」と発言すると、相手は「許可を出した覚えはない」「恩恵を強要されているようだ」と受け取ってしまう。文法的な重複に加え、語用論的な条件を欠いていることが、この言葉が敬遠される決定的な理由だ。
輪をかけて問題視されるのが、「お伺いさせていただきます」という表現だ。接頭辞の「お」、本動詞の「伺う」、「いただく」が連なる三重敬語であり、ビジネス現場においてお伺いさせていただきます 失礼と指摘される最大の原因となっている。丁寧さを追求するあまり敬語を盛ってしまう心理が、かえって相手に稚拙な印象を与えてしまうのだ。