彼女の歩みを振り返る上で、映画監督・河瀨直美との出会いは決定的な契機だった。地元・奈良の中学校で靴箱を掃除していたところをスカウトされ、映画『萌の朱雀』の主演に抜擢された逸話はあまりにも有名だ。演技指導という枠組みを超え、その土地の風土と同化しながら役を生きる経験が、彼女の根底に「嘘のない演技」という絶対的な基準を植え付けた。
その後、是枝裕和監督による『そして父になる』で演じた母親役は、観客に静かな衝撃を与えた。取り違えられた我が子への愛情と、拭い去れない血縁への戸惑い。言葉数が削ぎ落とされた演出の中で、視線の揺らぎやわずかな仕草によって母性の揺らぎを完璧に表現してみせた。日本映画界を牽引する名匠たちがこぞって彼女を求めるのは、作為を超えた「人間の生身」をフィルムに焼き付ける稀有な能力を見出しているからにほかならない。