蕎麦屋における二大巨頭である「もりそば」と「かけそば」ですが、両者を分かつ最大の要素は、麺の温度状態と合わせる「そばつゆの仕立て(かえしと出汁の比率)」にあります。
冷たいそばと温かいそばの違いを物理的に見ると、もりそばは茹で上げた麺を冷水でしっかり締めて器に盛り、濃厚な「つけ汁(辛汁)」に浸して食します。一方のかけそばは、冷水で締めた麺を再び湯通しして温め直したあと、丼に注いだたっぷりの「かけ汁(甘汁)」とともに味わう仕様です。
ここで極めて重要なのが、職人が使い分ける「そばつゆ」の濃度設計です。そばつゆは、醤油・みりん・砂糖を熟成させた「かえし」と、鰹節などで引いた「だし」を調合して作られます。
もりそば用のつけ汁は、麺の先端を少し浸すだけで味が決まるよう、「かえし 1 : だし 3〜4」という極めて濃厚な比率で仕上げられます。これに対し、最後の一滴まで飲み干すことを前提としたかけそばのかけ汁は、「かえし 1 : だし 8〜10」程度まで出汁で贅沢に伸ばされています。つまり、単に同じ汁をお湯で割っているわけではなく、麺が吸い込む温度変化や口内での広がり方を計算し尽くした別物の料理なのです。