ガラガラと鳴る引き戸の奥に広がるのは、大正から昭和初期にかけて建てられた日本家屋の原風景だ。均一化された現代のモダン建築では決して再現できない、光と影のグラデーションがそこにある。
欄間に刻まれた繊細な透かし彫り。わずかに歪みを残す昔ながらの手吹きガラス。窓の外に目をやれば、青々とした苔と季節の草花が揺れる坪庭が、午後の柔らかな木漏れ日を部屋の隅々へと届けている。時折、風鈴がチリンと鳴る。ただそれだけの音に、心が洗われる。
「この家は生きているんです」。厨房から聞こえる包丁のリズムとともに、スタッフが控えめに微笑む。傷一つ、床の軋み一つに、何世代にもわたってここに集った人々の笑い声や団欒の温もりが染み付いている。席に座っているだけで、呼吸が自然と深くなっていくのがわかる。