人工関節の性能が飛躍的に向上したとはいえ、術後初期における最大の懸念は依然として「脱臼」である。特に退院直後、病院のバリアフリー環境から自宅の生活環境へ戻った瞬間に潜むリスクは見逃せない。
執刀アプローチ(後方侵入か前方侵入か)によって注意すべき動作は異なるが、共通して厳禁とされるのは「屈曲・内転・内旋」が複合する動きだ。具体的には、床に落ちた物を拾おうと前屈みになりながら患側の脚を内側に捻る動作や、低い椅子からの無理な立ち上がり、横座りやあぐらなどが該当する。
自宅療養で最も陥りやすい落とし穴は、自宅の「低すぎる座面」だ。深く沈み込む柔らかいソファや和式便座、布団からの起き上がりは、股関節に許容範囲を超える過負荷を強いる。クッションを用いた座面の底上げや手すりの設置など、環境調整を怠ったまま自己流の動きを続けることこそが、回復を大きく後退させる引き金となる。