ホテルへ連れ戻された後、待っていたのは朝鮮労働党の幹部や治安当局による激しい査問だった。ホテルの客室には盗聴器が仕掛けられているのが常識の国である。持ち込んだ機材とテープの提出を求められ、部屋の空気は完全に氷点下まで冷え切っていた。もしスパイ行為や指導者への侮辱と見なされれば、その場で強制収容所送りになってもおかしくない。
江頭自身も後に「あの時ばかりは本当に殺されると思った」と述懐している。大川興業側は機転を利かせ、問題のパフォーマンスが映ったテープを隠蔽し、当たり障りのない観光風景のテープを当局に差し出すことで急場をしのいだ。異様な緊張感の中で行われた心理戦は、まさに命をチップにした危険な賭けだった。