マルベリーに与えられた最も象徴的で強烈な花言葉、それが「共に死す」だ。一見すると恐ろしくすら思えるこの言葉の背景には、古代ローマの詩人オウィディウスが著書『変身物語』の中で語り継いだ、切なくも美しいギリシャ神話のエピソードが存在する。
物語の主人公は、隣り合う家に暮らしながら親の反対によって引き裂かれた若き恋人たち、ピュラモスとティスベである。2人は駆け落ちを約束し、夜陰に乗じて街外れの白い桑の実がなる木の下で待ち合わせを決めた。しかし、先に到着したティスベの前に口を血で染めたライオンが現れる。彼女は慌てて逃げ出すが、その際に落としたベールをライオンが噛みちぎり、血で汚してしまう。遅れて到着したピュラモスは、血まみれのベールを見てティスベが獣に喰われたと思い込み、絶望のあまり自分の剣で胸を突き刺した。
戻ってきたティスベは瀕死のピュラモスを発見し、彼の後を追って自らも命を絶つ。その際、彼女は「私たちの愛を記念して、この木の実を永遠に死の象徴として赤く染めてほしい」と神に祈りを捧げた。恋人たちの血を吸った桑の木は、それまで白かった実を深い暗赤色に変えたという。この凄絶な「愛の殉教」こそが、「共に死す」という言葉の原点なのだ。