生態系と農業の接点に目を向けると、猪と豚の間には深刻な感染症と雑種化の課題が横たわっています。防疫の観点から最大の焦点となっているのが豚熱(CSF)およびアフリカ豚熱(ASF)の感染拡大リスクです。
豚熱は猪と豚の両方に高い感染力と致死率を持つウイルス性疾患であり、野生の猪が山林を通じてウイルスを運搬することで、養豚農場への侵入リスクが常に警戒されています。全国の山野では野生猪向けの経口ワクチン散布が継続されており、家畜防疫と野生鳥獣管理は一体の課題として扱われています。また、ジビエ肉を一般消費者が扱う際は、E型肝炎ウイルスや有線条虫などの寄生虫リスクを完全に排除するため、「中心部まで75℃で1分間以上の加熱」を厳守することが大前提です。
さらに見過ごせないのが、交配の可能性が生み出した「イノブタ」の野生化問題です。かつて観光牧場や食肉用として飼養されていたイノブタが脱走したり、野良化した個体が山野で繁殖した事例が各地で報告されています。イノブタは猪の警戒心と環境適応力に加え、豚の多産性(一度に産む子の多さ)を兼ね備えているケースがあり、農作物への食害や土着の猪との遺伝子汚染が深刻な環境負荷をもたらしています。