香川県三豊市仁尾町に広がる父母ヶ浜(ちちぶがはま)は、かつては地元住民に親しまれる穏やかな海水浴場でした。難読地名としても知られるこの海岸が「日本のウユニ塩湖」として一躍脚光を浴びた背景には、瀬戸内海特有の特殊な地形条件と、地域住民による地道な環境保全活動の歴史があります。
瀬戸内海は干満の差が非常に大きく、大潮の干潮時には沖合数百メートルにわたって広大な干潟が出現します。父母ヶ浜の砂浜は極めて平坦で粒子が細かく、潮が引いた砂浜のくぼみに海水が取り残されることで、波のない穏やかな「潮だまり(タイドプール)」が無数に形成されます。この潮だまりの水面が風のない夕暮れ時に完全な水平面を保つことで、空の色彩を寸分違わず映し出す天然の巨大ミラーと化すのです。
この絶景が維持されている根底には、1990年代に持ち上がった埋め立て・工場誘致計画を阻止し、海岸清掃を20年以上にわたって毎月継続してきた地元有志「ちちぶの会」の存在があります。美しい砂浜を守り抜いた地元住民の熱意と、2016年に三豊市観光交流局が仕掛けた写真コンテストを契機とするSNSでの爆発的拡散が結びつき、現在の国際的な人気観光地としての地位が確立されました。