話は明治時代まで遡る。神田の地に暖簾を掲げたのが始まりとされるこの老舗は、140年以上の歳月を超えて江戸前いなり寿司の代名詞として君臨してきた。歌舞伎の演目『初音の鼓』に登場する狐のキャラクター「信夫(しのぶ)」にちなんで名付けられたとされる屋号には、庶民の粋とユーモアが込められている。
毎朝まだ暗いうちから始まる仕込み作業。職人たちの手さばきに迷いはない。大鍋で煮立てられる油揚げは、特製の醤油と砂糖、そして秘伝の出汁をたっぷりと吸い込み、黄金色から深い琥珀色へと表情を変えていく。皮の厚みや柔らかさの微調整は、職人の長年の勘だけが頼りだ。均一に煮含められた揚げに酢飯を手際よく詰めていく作業は、まさに洗練された職人技の結晶と言える。