タイパ(タイムパフォーマンス)という言葉が叫ばれて久しいが、食の領域においては今、真逆のベクトルが急速に支持を集めている。わざわざ不便な場所へ足を運び、手間暇のかかった料理をゆっくりと待つ時間そのものが、エンターテインメントとして再評価されている。
最寄りの駅からタクシーで40分、そこからさらに鬱蒼とした山道を徒歩で登った場所にしか存在しない店がある。天候が悪ければ辿り着くことすら困難だ。効率性を最優先する現代の経済合理性から見れば、完全な失策に見えるだろう。しかし、その「辿り着くまでの物語」こそが、客にとって忘れがたいスパイスとなる。汗をかき、森の冷気を感じながら辿り着いた果てに口にする温かいコンソメスープの味は、街中の最高級レストランでも決して再現できない。