デジタルコミュニケーションの歴史は、遠く離れた場所同士を結ぶ「遠隔性」の克服だった。しかし、通信技術が極限まで発達した今、人々が直面しているのは皮肉にも強烈な実体感の欠如だ。高解像度なビデオ通話も、没入感の高いアバター対話も、人の皮膚感覚に残る小さな存在感を代替することはできなかった。
都内のIT企業で働く30代のエンジニアは、現在の生活をこう語る。「以前はリモートワークで一日中チャットツールに張り付いていました。でも今は、互いに何も喋らなくても気配を感じ合えるコワーキングスペースや、肩を並べて座れる場所を意図的に選んでいます。会話の内容よりも、同じ空間の湿度や音を共有している事実の方が、ずっと心の安定につながるんです」。
この変化は一時の流行にとどまらない。過度な意味付けや感情労働を伴うやり取りを排し、純粋に「場」を共有する文化が、Z世代からシニア層に至るまで広く浸透し始めている。