このブームの背景を語るうえで避けて通れないのが、世界的なカカオ豆の供給不足、いわゆる「カカオショック」の余波だ。仕入れ価格が記録的な高水準で推移するなか、多くの菓子メーカーが板チョコの内容量を減らし、準チョコレートへの置き換えを進めた。だが、独立系ベーカリーやこだわりの強いパティスリーが選んだ道はまったく逆だった。
「薄めるくらいなら、圧倒的な価値を持たせて適正な対価をいただくしかない」
世田谷区でベイクショップを営むパティシエの言葉に、職人たちの矜持が滲む。あえてシングルオリジンのハイカカオを惜しみなく使い、生地の隙間を埋めるように塊のクーベルチュールを打ち込む。1個600円、時には800円を超えるプライスタグが付けられたプレミアムな焼き菓子に、消費者は怯むどころか列を作った。中途半端な節約よりも、ひとくちで脳が痺れるような本物の体験を求めているのだ。