幕末の足音が近づく安政6年、初代がこの地に店を開いた。当時の池之端は、不忍池の豊かな水面と四季折々の自然に囲まれた格好の行楽地。参詣客や行商が行き交い、町人文化の熱気が頂点に達していた場所である。幾度もの大火、関東大震災、そして太平洋戦争の空襲。東京という街を根底から揺るがした歴史の荒波を潜り抜け、同じ場所で暖簾を守り続けてきた歴史そのものが、この店の矜持となっている。
160余年の年月を経て、周りの景色は決定的に変わった。かつての木造店舗や風情ある町並みは近代的なビルへと姿を変え、通りを行き交う大八車はEVタクシーや最新の自動運転車に取って代わられた。しかし、木鉢で粉を捏ね、麺棒で打ち伸ばす職人の手仕事に大きな変更はない。機械化と自動化が急速に進む現代だからこそ、人間の五感を頼りにした伝統の製法がひときわの光を放つ。